よし、これからネットショップで一儲けしてやろう! と思っている人には、なかなかつらい本だと思います。

というのも、本書『ネットで売れるもの 売れないもの 増補改訂版』が伝えるのは、もはやネットで簡単にものが売れる時代ではないという現実と、それでも売りたければそれ相応の投資と時間と労力、そして戦略を要するという、警告にも似た心得であるからです。

著者はかつて観光牧場に勤務しており、2000年の春にとあるネットショップ運営セミナーに参加し、半信半疑で同牧場の商品を販売するサイトを立ち上げたところ、3年後には年商1000万円を軽く超える事業に成長。さらに4年後、その成功体験を広めるべく経営コンサルタントに転身したという経歴を持ちます。

しかし、著者がネットショップを運営しはじめた2000年代初頭と現在とでは、ネットを取り巻く環境はまったく異なっています。具体的には、

・ライバル店舗の数

・広告費

・検索エンジン対策

・顧客の質

などが激変しており、さらにSNSやスマホなどの新たなツールも登場しています。つまり、著者のような成功例はインターネット黎明期における先駆者利益にすぎず、それがいまなお「ネットを使えば何でも売れる」という誤解を生じさせており、本書はその誤解を解くべく執筆されたのでしょう。

では、ネットで「売れるもの」とは何か?

ネットビジネスの基本は、いうまでもなく人を集めることです。ネットで売れるのは集客力のある商品であり、それを突き詰めれば「検索されやすい商品」になります。検索キーワードの数が売上と直結するため、「極端な話、現状のネットビジネスの市場では、最初に選んだ商品によって、商売の成否は八割方決まってしまうと言っても過言ではない」(P34)のです。

しかし、「検索されやすい商品」にはライバルが殺到し、検索エンジンで上位に表示されにくくなります。露出を増やすにはキーワード広告を出稿しなければなりませんが、人気のある(検索されやすい)キーワード広告の価格は急騰し、また広告費をかけずに検索結果の順位を上げる検索エンジン対策も複雑化しているといいます。当然、市場では熾烈な価格競争が繰り広げられてもいます。

結果として、いまや「インターネットは、"ナンバーワン"しか生き残れないという厳しい市場になっている」(P78)といいます。すなわち、

・検索で"一番"上に表示される

・広告費を"一番"たくさん使って露出を上げている

・価格が"一番"安い

上記を満たすネットショップでなければ、成功するのは難しいというわけです。そして消費者は「検索」という機能を使い、自分にとって"一番"都合のよいショップで買う。ネットショッピングをしている人は移り気で、「商品さえ良ければお客さんはリピーターになってくれる」というのは幻想でしかありません。

さらに、顧客のネットリテラシーの向上により、ショップ側が一方的に流す情報を鵜呑みにしなくなっているため、闇雲に広告を打つだけではなく、他店との差別化を図ったり、細かいマーケティングを行うといった戦略も必要とされています。

他方で、近年はネットの「口コミ」も販促として注目を集めてもいるが、その効果に対しても、著者は懐疑的です。

そもそも口コミとは、商品を買ってくれた人が第三者に紹介し、そこからまた商品が売れていく仕組みであり、そのためには一定数の「買ってくれる人」がいなければ成立しません。事実、「口コミで売れた過去の人気商品を振り返っても、最初から売れていたか、広告費を大量に使い、それなりに大きな"仕掛け"を施したおかげで売れた事例が多い」(P169)といいます。「口コミで売れることを期待する」ことは、「売り方がわからないから天に任せる」ことと同義であり、それは端から戦略を放棄することに他ならないのです。

また、口コミに利用されるFacebookやTwitterなどのSNSも、手軽に情報を拡散できるものの、もともとはコミュニケーションツールであるため、商売の臭いを出すと拒否反応を示されるケースが多いのも注意が必要です。さらに、こうしたSNSの浸透により懸念されるのが、メールマガジンによる集客モデルの崩壊です。

象徴的なのが、無料通話・メールアプリのLINEであり、今後はスマホの普及に伴い「メールアドレス」自体を保有する人が少なくなることが予想されます。その結果、「これまでネットショップの飛び道具として活用されてきたメールマガジンは、次々に読者を失っていき、プッシュ型の販促はネット上では通用しなくなっていく可能性は高い」(P179)といいます。

それ以外にも、著者はネットビジネス対する数々の甘い期待や希望的観測をことごとく打ち砕いていきます。しかし、幻想を抱いたままネットの海に飛び込んでも溺れるだけです。これからネットビジネスに参入しようという人はもちろん、すでに参入済みの人にとっても、正しい現状認識は不可欠であり、その意味で本書はよい教材になり得るでしょう。

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『ネットで売れるもの 売れないもの 増補改訂版―商品選びで成否の8割が決まる (日経ビジネス人文庫)』
著:竹内 謙礼

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