ECを語る上で読んでおきたい3冊をピックアップしました。

ECに必要なものを知り、ECを始めたくなる1冊

なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?

『なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?』 著:尼口友厚
(出版社:日経BPコンサルティング)

株式会社ネットコンシェルジェを立ち上げ、数多くのECサイトをプロデュースしている著者尼口氏が持つノウハウが余す事無く書かれているのが本書です。尼口氏は、大切なのは「ECサイトの唯一化」だと言います。ECサイトの唯一化とは「競合サイトと比べて、商品、サービス、コンテンツ、コミュニティ、付加価値などの面で、独自の魅力を身につけており、唯一無二の存在である状態」(カバーより引用)と定義しています。 本書には、唯一化のために「やってはいけないこと」「やるべきこと」「それをふまえた上での心構え」が書かれており、唯一化に成功した事例として海外のECサイトが数多く紹介されています。たとえば、「どこにでもある日用品を値下げせず売ることは可能か」と題し、男性用ひげそりを扱う「Dollar Shave Club」を紹介しています(P29より引用)。

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このECサイトはどこでも手に入る商品を、他店ではなくここで買う理由として、「ハイテクなひげそりを購入させられているのは大手メーカーの陰謀であり、その陰謀に対抗するためにできたのがDollar Shave Clubである」という物語を演出しています。そして、個々の顧客をその物語の登場人物として引き込み、「このクラブに入って、この陰謀に対抗するために一緒に戦おう」と世の男たちに呼びかけることで、「退屈な買い物」を「楽しい買い物」に変えることに成功しています(P31より引用)。つまり顧客が求めているのは商品の値段や品質よりも「よい取り引き」であり、「よい買い物体験」といえるでしょう。

このような「唯一化」されたECサイトの事例を読むうちに、気付けばそのサイトのファンに、尼口氏のファンになってしまうことでしょう。本書で、彼が自身の持つノウハウを惜しげもなくオープンにすることには理由がありました。それは「日本のeコマースに対する危機感」と「海外に市場を広げたいという野望」があったからです(P282より引用)。本書は日本のECサイトが飛躍的にアップするための必読書であり、ECサイトを理解するための入門書ともいえるでしょう。読めば皆、いろいろなECサイトを見て研究し、自分で始めたくなるような、そんな1冊です。

オンリーワンを知り、ECを分析できる1冊

顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか『顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか』
  著:トニー・シェイ 監訳・翻訳:本荘修二  翻訳:豊田早苗
(出版社:株式会社ダイヤモンド社)

尼口氏の本に登場した一節で「最安商品か唯一商品しか生き残れないECの世界で、最安商品でも唯一商品でもないのに大きく成功しているECサイトがある。」と紹介されていたのがザッポスです。本書はザッポスのCEOであるトニー・シェイ自らが書いたもの。トニー・シェイの自伝的要素もありますが、ザッポスの指針となっている価値観や、ザッポスの持っているビジョンについて余すことなく書かれています。ザッポスは靴や衣料、アクセサリーを売るオンライン小売会社で、靴のオンライン小売りの中ではアメリカ最大です。どこでも買える靴を商品に、ここまでザッポスが成長することができたのは徹底したカスタマー・サービスがあったからでした。本書には「あなたの会社にカスタマー・サービスを浸透させる10の方法(P246)」も記されています。

そのカスタマー・サービスの例を挙げると、ザッポスのコールセンターにはマニュアルがありません。それを象徴するエピソードのひとつとして「コールセンターにピザのオーダーをした」というエピソードがあります。「ペパローニ・ピザが食べたいのだが、ザッポスが助けてくれるかどうか知りたい」という顧客に対して、ザッポスのオペレーターは、なんとその時間にまだ営業しているピザ店をリストアップして伝えたのでした。 その時の顧客はいまでは生涯の付き合いとなっており、トニー・シェイいわく「このように、どんなに普通ではない、奇妙な状況であっても、ブランドのためによいことをするという権限」をザッポスの社員は持っているのです。ザッポスは200911月、EC界の巨人Amazonに当時の同社史上最大である12億ドルもの価格で買収されました。本書はAmazonCEOであるジェフ・ベゾスとの交渉当初から、買収後のザッポス社員とのやりとりまで細かく描かれており、全社員に向けてトニー・シェイが送ったメールも記されています。それを読むと、トニー・シェイは一貫してザッポスの企業文化を守りつつ、Amazonによる買収でさらなる飛躍を期待していることがわかります。Amazonの子会社になってもトニー・シェイがCEOとしてザッポスに残るかぎり、彼らの快進撃はまだまだ止まりそうにありません。

ナンバーワンを知り、未来のECを想像できる1冊

ジェフ・ベゾス 果てなき野望ジェフ・ベゾス 果てなき野望 著:ブラッド・ストーン 翻訳:井口耕二
(出版社:日経BP社)

本書は先に出た2冊とは少し異なります。それは著者による入念な取材に基づいた第三者視点の自伝であるということです。AmazonCEOジェフ・ベゾスの生い立ちから現在に至るまでの知られざるエピソードが数多く収録されています。高校卒業の時、優秀な成績だったベゾスは卒業生総代に選ばれました。そのときの挨拶でベゾスは「宇宙。そこは最後のフロンティア」というスタートレックの有名なオープニングを引用し、「周回軌道上に移住用コロニーを作り、地球は全体を自然公園とすることで人類を救う」という夢を語っています(P214より引用)。Amazonの宇宙事業参入を予期させるエピソードのひとつです。また、本書ではベゾス本人と音信不通であった実の父との接触にも成功し、取材をしています。ベゾスの生い立ちから現在までを知ると、彼が「エブリシング・ストア」というアイデアを実現するために、これまでいかに走り続けてきたかよくわかります。エブリシング・ストアとは「インターネット企業がメーカーと消費者をつなぎ、世界に向けてあらゆる商品を販売する」という考えです(P33より引用)。ベゾスはまず最初に「書籍」という一種類の商品だったら実現可能だと考え、それを実行しました。Amazon起業当時、すでにオンライン書店はブックスドットコムなどの競合が存在していましたが、ベゾスは辞書の「A」で始まる「Amazon」を見つけ、世界最大の川、すなわち世界最大の書店だとひざを打ちます(P47より引用)。この時、199410月。それから約20年の時を経て、Amazonはオンライン書店どころかベゾスが創業当初から掲げている「エブリシング・ストア」へと確実に近づいています。もちろん、そこに至るまではさまざまな困難や批判もありました。1クリック注文プロセスという特許を申請し、競合であるバーンズ&ノーブルを特許の侵害で訴えたこともありました。サードパーティの売り手によるAmazonへの出品を可能にするマーケットプレイスを導入し、商品をAmazonから買うか、それ以外の売り手から買うかは顧客が選べるようにした際には、サプライヤーとの間に緊張が走りました。このように、ベゾスはエブリシング・ストア実現のためならある種、非情ともいえる手段を用いています。しかし、ベゾスがなにより大事にしているのは「顧客体験」。彼は常に「顧客第一」という信念を掲げていました。この信念が揺るがないからこそ、ベゾスは何よりも顧客体験を重要視するザッポスを恐れ、尊敬し、その信念に共感できるパートナーとして買収したのでしょう。

インターネット黎明期から常に市場に新しいサービスを投入してきたAmazonの今後の展開に、ますます目が離せません。本書はその原点を知ることができ、さらにその先の未来を想像するためにも必読の一冊です。巻末にはベゾスの愛読書であり、Amazonを理解するために必読な12冊の書籍が紹介されています。小説からビジネス書まで様々あり、こちらも必見です。

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