もし、広告文の最後の一行を少し変えるだけで売上を倍増させられる方法があるとしたら、あなたは信じるでしょうか......?

本書『シュガーマンのマーケティング30の法則』の著者ジョセフ・シュガーマンは、自身の設立した通信販売会社で30年以上にわたり広告文を書き続けていたコピーライターであり、またテレビ通販などを通じて「ブルー・ブロッカー」というサングラスを世界中で2000万本以上売り上げた伝説のダイレクト・マーケッターです。

著者によれば、セールスやマーケティングにおいては、お客の心に働きかけ、心を動かし、ついには購入を決めさせる「心理的トリガー(引き金)」の存在を見極めることが肝要であり、本書は、そんな彼が「言葉の力」で商品やサービスを売ってきたノウハウを30のトリガーに集約したものです。

そのひとつが、「一貫性の原理」。これは、いったん購入を決定したお客は「ついで買い」をするなど、最初の購入行動と一致した行動を取り続けようとする法則です。ここで重要なのは「どれほど小さな買い物であっても、購買決定をこれ以上ないほど簡単にしてあげること」(P21)だそうです。

つまり、ある商品と、それに付随するオプションを売りたい場合、まずはシンプルに商品本体のみを売ることに専念しなければならないのです。なぜなら、オプションの存在は商談を複雑にさせるノイズにしかならないからです。しかし、お客が本体の購入を決定した後であれば、「そうそう、じつはこういうのもあるんですよ」とオプションを切り出しても、ひとたび購買行動というレールに乗ったお客は「じゃあ、それももらおうか」と追加購入に寛容になります。結果、最終的な売上を増やすことができるというわけです。

では、より突っ込んで、お客が商品の購入を決定する際の根源的なトリガーは何か? それは「感覚」だそうです。

著者はこれを「なぜメルセデス・ベンツが売れるのか」を例に挙げて説明しています。すなわち、人々が大枚をはたいてベンツを買う理由は、率直にいえば「ベンツのオーナー」という特権的な地位が欲しいからです。しかし、買った理由を説明しなければならないとき、多くの人は「高級車だから」とは正直にはいえず、技術的な美点を語ろうとします。そうした技術は、一部の大衆車にも備わっているのに、です。

要するに、「人は感覚で買い、理屈で納得(正当化)する」(P95)。つまり、セールスでは「理屈」で商品の良さをアピールするよりも、まず「感覚」に訴える必要があります。ここでモノをいうのが「言葉の力」です。著者は、よく広告文の終わりにこんなフレーズが見受けられることを強調しています。

「万一、少しでもご満足いただけなかった場合は、30日以内に商品をご返品ください。謹んで速やかに代金をお返しいたします」(P97)

この一文、どこか違和感がないでしょうか。「謹んで返金」というのは、言葉の本来の意味を考えると論理的におかしいです。しかし、人は言葉の意味を、無意識のうちに感覚的に捉え直しているのです。つまり、ここで「謹んで」は、「丁寧に」や「とやかく言わずに」といった意味に変換され、それが「信頼できそうな、お客さん思いの会社」という印象につながるというのです。そんなことは一言もいっていないのに、です。

あるいは「この商品を買ってください」と、「この商品に投資しませんか?」とでは、どちらが好意的に受け取られるのでしょうか。多くの人は、「投資」という言葉から「見返り」「リターン」を連想し、自分に得があるように思い込むのではないでしょうか。

このように、どんな言葉にも、感覚的な意味合いや感覚的なストーリーが備わっています。それに気づくことができれば、特定の言葉がセールスにどのような効果をもたらすかもわかるようになります。このあたりは、長年コピーライターとして健筆をふるってきた著者ならではの指摘です。ちなみに、お客を「理屈で正当化」させるテクニックも、「感覚」の次のトリガーとしてきちんと解説されており、その点も抜かりがありません。

最後に、いま「感覚的なストーリー」と書きましたが、本書では「ストーリー(物語)」というのも重要なトリガーのひとつとして紹介されています。

「魅力的なマーケッターやセールスパーソンたちは、いつでも面白い話を用意しています。彼らにとっては、お客とつながりお客を喜ばせる手段なのだ」(P72)

簡単にいえば、人は誰しも物語が好きであり、物語はセールスに意味を与え、お客に商品を使う場面を想像させる役割を果たすということです。

事実、本書は理詰めで購買心理を分析しているが、それを読者に伝えるにあたっては、多種多様なエピソードや著者の体験談=「物語」でもって感覚に訴えるという手法をとっています。ゆえに、ビジネス本というよりは読み物としての色合いが濃く、また物語によって個々のトリガーを使うべき具体的かつ実務的なシーンをビジュアルとしてイメージできるようにもなっています。まさに有言実行、言行一致であり、これは著者が30番目のトリガーとして挙げている「正直さ」の表れでしょう。

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『シュガーマンのマーケティング30の法則 お客がモノを買ってしまう心理的トリガーとは (フォレスト出版)』
著:ジョセフ・シュガーマン

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