ベンチャーを成功に導く要因とは何でしょうか?

アイデア? 才能? 人脈? カリスマ性?

どれもあるに越したことはないでしょうが、本書『GILT(ギルト) ITとファッションで世界を変える私たちの起業ストーリー』の著者たちはこう断言します。

それは、「人間関係と実行力」であると。

GILTとは、「招待客限定のオンラインのサンプルセール(引用者注:在庫処分セール)で、デザイナーズブランドの商品が最大70%引きで買える」(P191)というコンセプトのもと2007年に立ち上げられたECサイト。本書は、そのGILTが創業からわずか3年半で10億ドル企業へと急成長した過程を綴ったものです。

※ギルト・グループ株式会社、代表取締役CEOのジョアンナ・ドゥービン氏へのインタビューはこちら

核となるのは、本書の共同執筆者であるアレクシス・メイバンクとアレクサンドラ・ウィルキス・ウィルソンという、ファーストネームのよく似た2人の女性。ともにハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得した同窓生であり、アレクシスは創業したばかりのイーベイで、アレクサンドラはルイ・ヴィトンやブルガリで働いた経験を持ちます。

この経歴から、Eコマースの世界で揉まれてきたアレクシスと、ラグジュアリーブランド業界にコネを持つアレクサンドラという2人のエリート(しかも両者ともにブロンド美人!)のサクセスストーリーと察しはつきますよね。

しかし、彼女たちの最大の強みは、彼女たちが大学院時代からの大親友であり、お互いに「一番いいときと悪いときに相手がどう振る舞うかを見てきたこと」(P91)です。人はどん底にあるときこそ、自身の本質や人生観を垣間見せます。それを踏まえたうえで結ばれる信頼関係は、ことのほか強固です。逆にいえば、ビジネスパートナーを選ぶ際、逆境にあるときのパートナー候補の振る舞い方を知っておくことは、きわめて重要だというわけです。

■アイデア自体より、アイデアを形にする環境が大切

また、2人ともファッションが大好きで、ニューヨーク市内で開催されるサンプルセールめぐりが趣味だったことも見逃せません。「オンラインでサンプルセールをやる」というアイデア自体は奇抜なひらめきではなく、2人の経験から自然と醸造されたものであり、彼女たちの強さは、それを形にしたこと。そして、そのために必要なのが、チームです。

アレクシスとアレクサンドラに、優秀なエンジニアであるマイクとフォン、そしてショップウィキやダブルクリックなど複数のIT企業のスタートアップを成功させたケビンを加えた5名が、GILTの創業チームとなります。

彼女たちはみなある分野に秀でた才能を持っていますが、1人で何でもできる天才タイプではありません。ベンチャー企業というと、一昔前は豪腕を振るうカリスマ経営者がもてはやされましたが、近年は創業者がいかによいチームを作れるかが重要視されるとのこと。それは、GILTに投資したあるベンチャーキャピタルの意見にも表れています。

「起業家の中には情熱と意欲があふれていても、自分の考えに強く固執しすぎるために、チームが効率よく機能するよう自分をコントロールすることができない人たちがいる。(中略)起業家にとってきわめて重要なことは、トップクラスの潜在能力がある人材が夢中になって働ける環境をつくることだ」(P177)

ネット環境が発達した現在、アイデアは安く手に入りやすく、また盗まれやすい。そういう時代だからこそ、チームワーク(人間関係)を基盤とした実行力が試されます。この実行力を測る尺度のひとつが、スピード。GILTは、2007年7月にアレクシスとケビンが初めて打ち合わせをしてから、わずか4カ月後の11月にサイトをオープンしています。

これには、年末年始のショッピングシーズンに間に合わせる意図も当然ありますが、とにもかくにも市場に一番乗りすることで注目を集め、必ず出てくるであろうライバルに先んじて顧客を掴み、高級ブランドとの取引に先鞭をつけることを目論んでいたからです。

そのため、エンジニアのマイクとフォンは「サイト立ち上げ前に返品のためのページをつくることさえやっていなかった」(P130)ほどです。もっとも、購入者が返品を決めるまでは最低4日間あり、その間に返品ページをサイトに加えることは十分可能だと判断したうえでのことですが。

■結局は地道な努力の積み重ねがモノをいう

かくしてGILTはスタートアップに成功し、事業を拡大し、2009年には日本進出も果たしました。そして、ファッションのみならずインテリアや旅行、車まで取り扱い、会員数は500万人、従業員数も900人を超える大企業となったいまでも「人間関係と実行力」を最重要視した企業づくりに取り組んでいます。

本書では、アイデアの練り上げ方から人脈を広げるコツ、資金調達のタイミング、効果的なバイラル・マーケティングの方法、トラブルへの対処法(とりわけ2008年のリーマン・ショックが図らずも追い風になったくだりは面白い)、ビジネス規模が拡大するなかで企業文化を維持する方法などが具体例を交えて語られていますが、それらは必ずしも画期的な手法ではなく、どちらかといえば地道な努力の積み重ねです。

たとえばGILTの認知度が低い各都市を飛び回り、地元の有力者(影響力のある流行発信者やブロガー)に直接会ったうえで、当地でイベントなども開催しています。その他にもサイトオープン直前、GILTのサーバーから会員候補に送信された招待メールがスパムフォルダに直行していたことが判明した際は、個人のメールアドレスから2万通以上のメールを送るなどの対策も行いました。

もちもん、取引先となるブランドのイメージを損なわないサイト作りを徹底しているのは言うまでもありません。オンライン/オフライン問わず、草の根的で継続的な仕掛けを実施し、顧客とブランド双方に対して誠実であろうとする。そこには「ブランド商売で一発当ててやろう」といった山師的な部分は微塵も感じられません。

そうした姿勢は、ファッションやITといった限定された分野にとどまらず、あらゆるビジネスシーンに普遍性を持つはずです。本書は、サクセスストーリーとして痛快であるのみならず、起業を目指す人や新しい仕事にチャレンジしたい人にとっても、現在の自分の働き方やビジネス観を問い直すきっかけを与えてくれる一冊です。

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『GILT(ギルト) ITとファッションで世界を変える私たちの起業ストーリー』
著:アレクシス・メイバンク / アレクサンドラ・ウィルキス・ウィルソン

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