Eコマースの現状とこれからを、先端を行く人物同士の対談で解き明かしていく本連載。第二回の今回は、電通のEC&システムソリューション部の三橋良平氏が、同社と業務提携関係にある株式会社ネットコンシェルジェの尼口友厚氏を訪ね、早くからEコマースの本質を追究してきた尼口氏の活動と考えをうかがいつつ、現状、そして今後の展開について対談をしました。

Eコマースならではのブランディングの形

三橋:株式会社ネットコンシェルジェの代表取締役として、過去10年間で140以上のEコマースサイトをプロデュースしてきた尼口さんですが、ご自身がEコマースと関わるようになったきっかけは何だったのでしょうか?

尼口:僕は元からウェブ業界の人間で、初めはウェブデザイナーとして仕事をしていました。当時はアーティストの方のウェブサイト制作などをお手伝いしていたのですが、正直あまり手応えが感じられませんでした。クライアントからのフィードバックが来なかったのでデザイナーとして自分の仕事がどう評価されているのかがわからなかったんですね。そんな中、とあるEコマースサイトのデザインを担当したときに、「おかげさまですごく売れました」とクライアントが連絡をくれたことがありました。その経験がとても気持ちよくて、「Eコマースサイトは自分がやったことがきちんと評価されるから面白いな」と興味が湧いてきました。

三橋:ウェブデザイナーから転身されたということですが、元は制作会社に所属されていたのでしょうか?

尼口:そうです。CMの制作会社に勤めていて、佐川急便のCMを作ったりしていました。社内での花形は専らCM制作部門だったのですが、ウェブデザインの依頼も来ていたので僕はウェブ製作部門で仕事をしていたんです。でも実際のところデザインより、仕組みやマーケティングの要素が売り上げに大きく影響するということが段々わかってきて、よりEコマースに役立つ技術を身につけていこうと考えるようになりました。そこからは、さらに実務的なエンジニアやマーケターとしてのキャリアを積んできて今に至ります。

三橋:なるほど。そういったご経験が現在のネットコンシェルジェという会社での活動につながっているわけですね。僕はこれまでも何度か尼口さんとお仕事でご一緒していますが、実は初めてお会いしたときに「この人の考え方は、かなり先を行っているな」と感じたんです。

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尼口:本当ですか。それは初耳だなぁ(笑)。

三橋:当時、国内のEコマース業界には、コンバージョンレートなどの数字を上げていくことにしか目がいかない人がとても多かったのですが、尼口さんはすでにその部分を散々やり尽くしてきていて、「さらにその先で何ができるか」という段階で物事を考えている方でした。

尼口:そうですね。三橋さんにお会いした当時は、ちょうど業界自体が変化している時期で、Eコマースサイトの数が大幅に増加してきていたんです。そんな状況の中で、「いまEコマース業界が抱える課題は何か」と考えていくと、さらなる差別化であると感じていました。Eコマースサイトが増えてきた中で、いかに他サイトと差別化して集客していくのか。そして、いかにお客さんとの関係を維持して、他サイトに奪われないようにするか。僕はこの2つの課題をどうやってクリアするか、ということをずっと考えてきました。

三橋:尼口さんと何度かお仕事でご一緒する中で、とても印象に残っているのが「コンバージョンレートやCPAを上げるのも大事だけれど、それは誰でもできること」という言葉です。

尼口:商品がショッピングカートに入れられてから、いかに効率よく買わせるかという部分は、実は外部の業者さんにも任せられることなんですよね。実際、そこを請け負ってくれる会社も多いのでお任せできてしまうんです。でも、サイトの差別化は外部には任せにくい部分だと思います。だからこそ、自社の労力は、差別化のために割くべきだと思っています。

三橋:実際、他社との差別化はネットに限らずあらゆる業界の課題でもありますが、それをEコマースに落とし込む場合、尼口さんはクライアントとどういったコミュニケーションを取っているのでしょうか?

尼口:他との差別化もお客さんとの関係維持も結局はブランディング活動の一環だと思います。なので、きちんとブランディング活動ができていればこの2つはクリアできると考えていますね。

三橋:なるほど。では、ブランディング活動の中で、Eコマースとは具体的にどういう位置付けなのでしょうか?

尼口:実際、ブランディングの部署にいる方にとって、Eコマースサイトってあまり馴染みのある存在ではないと思うのです。でも実は顧客から見るとそこが重要なタッチポイントになっていて、現に総務省が出している情報データによると、家庭内でのネット利用目的の中でショッピングは2位なんです。つまり消費者からすれば、家でネットを使う際のとても重要な目的としてネットショッピングを利用しているはずなのに、企業側はその部分でしっかりとブランディングできていないのです。僕はそこがもったいないと思っていて、Eコマースできちんとブランディング活動をすれば、長期的に影響が出て来ると考えています。

三橋:そう考えると、Eコマースサイトならではのブランディング活動も見えてきそうですよね。

尼口:そうですね。先ほどのデータを元にすれば、ネットユーザーはそもそも購買意識が高い人たちなので、コンテンツもしっかりと読んでくれるはずなのです。直販だからこそできるコンテンツ作りを考えながら企画していくことは、Eコマースというチャンネルだからこそ可能となるブランディング活動なのかな、と思います。

Eコマースの改革によって成功した高島屋のブランディング

三橋:尼口さんは、これまで数々のEコマースサイトをプロデュースされてきたかと思います。中でも特に思い入れのある案件はありますか?

尼口:私の著書でも紹介させてもらっているお仕事なのですが、印象的だった成功体験は、高島屋さんの案件です。当初、僕らは「高島屋のファッション分野を強化するために何かいい方法はないですか?」という相談を受けていたのですが、少し違和感を覚えました。そこで「高島屋さんの原点になるような部分をもっと伸ばしたほうがいいんじゃないか」と思い、彼らの活動の大元になっているギフト分野をさらに強化することを提案してみました。当時の高島屋のサイトでは、ギフトが1つのカテゴリーとして、レディースやメンズファッションのカテゴリーと並列に並べられていたんです。しかし、そうではなくて、商品をご自宅用なのかギフト用なのか、はっきりと分類することで高島屋の提案力をアピールしていこうと試みました。サイトだけでなく、さまざまなシーンに合わせられるように包装紙にバリエーションを用意するようオペレーション部分まで手直ししていただいた結果、ギフト商戦では1位になったみたいです。

三橋:それは素晴らしい。そこまで大幅に変化させるとなると、高島屋さん側の意識も変わっていったのではないでしょうか?

尼口:今や会社としての方針も「日本一のギフトサイトを目指すんだ」という方向に変わったようです。やはり大切なのはその会社の原点で、「なぜそれを売っているのか」という部分を掘り下げていくことで必ずしっくりとくる付加価値を見つけ出すことができるんです。

三橋:でも、当初「ファッション分野を強化していたい」と言っていたクライアントに対して、「ファッションではなくギフトを強化すべきだ」と説得し、納得させるのはかなり大変な作業だったと思います。どういう風にアプローチしたのでしょうか?

尼口:その部分は本当に難しくて、僕らがコンサル業をやってきて一番悩ましかった部分でもあります。高島屋さんの場合は、Eコマースサイトの権限を部長さんが持っていたので、その方が納得すればプロジェクトを動かすことができました。その時は僕らの提案が部長さんの感性にはまったので、それほどガチガチに固めたエビデンスを出さなくても進めていけたのです。でも一般的な案件だと、まずはエビデンスが求められるはずですし、リスクがどの程度あるのか分析してくれと言われますよね。

三橋:確かにそうですね。私が関わったプロジェクトでも言われたことがありました。

尼口:そして実際そんなエビデンスは存在しないんです(笑)。他社の動向が必ずしもその会社にはまるとは限りませんし、あえて市場の逆を行こうみたいな話もあるかもしれないし、提案した企画をリスクの少ないものとして理解してもらうことはとても難しいのです。僕らとしても必ずしもクライアント側の決裁者と直接話をできるとは限りませんし、そういう意味では高島屋さんの案件が成功した要因の大半は、決裁者の方と対話ができ、かつその方と感性が合った、ということだと思います。

三橋:なるほど。それはEコマースサイトをプロデュースする上で大きな課題になりそうです。尼口さんと電通は業務提携をさせていただいていますが、そういった部分も力を合わせて解決していけたらと思います。

尼口:その点では、広いコネクションを持つ電通さんと提携することで、クライアントの部署を横断したコミュニケーションなどもしやすくなると思いますし、これまでよりもプロジェクトをいい形で実現できる確率も高まると期待しています!

Eコマースの新たな可能性を切り拓くキュレーションメディア「Cart(カート)」

三橋:尼口さんはご自身で「Cart(カート)」というネットショッピングメディアを運営されていますね。こちらのメディアではどんなサービスを提供しているのでしょうか?

尼口:Cartは、140~150名程のキュレーターという方たちが、自分が気になっている商品を紹介するネットショッピングマガジンのようなサービスです。キュレーターには、湘南乃風の若旦那さんや、RIP SLYMEのILMARIさんといった著名人の方々にご参加いただいています。

三橋:Cartにも、尼口さんがこれまでにEコマースで培った経験が生かされていそうです。

尼口:そうですね。「Eコマースでいかにしてブランディングをしていくか」と突き詰めて考えていくと、「認知」という壁に直面します。つまり、消費者に商品を知ってもらうのはとても難しいことなのです。そこで、「商品を知ってもらえるきっかけを作ってあげれば、差別化したコミュニケーションが回り出すのではないか」と考えてCartを作ることにしたのです。ネットショッピングにとってCartは認知を得るためのプラットフォームです。第三者の信頼できる人に推薦されることで、「この人がいいと言うからにはいい商品なんだね」という好意的な受け取り方ができますよね。Cartには、そういった流れを作る狙いがあります。

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三橋:認知のきっかけを作るためにキュレーターという役割を置いているわけですね。

尼口:そうです。先ほどもお話したように、「外注ではなく自分たちで工夫できる部分をどう差別化するか」ということや「お客さんとどう対話するか」ということは、Eコマースサイトの運営者自身が自分で考えなければならない要素ですが、実際にそれをどうやって消費者に知らせていくのかとなると、外部に頼らなければならないところも出てきます。そんなときにCartで面白いコンテンツを作って、Eコマースサイトの代わりに消費者に届けてあげられたらいいな、と考えています。

三橋:今はネット上にも商品が溢れていますし、消費者側も自分が何を選んだらいいのかを判断できる人ばかりではないと思うんです。そんな人にとって、Cartは自分が商品を選ぶ際に拠り所となるサービスになり得ると期待しています。それにしても、これだけ著名な方々をキュレーターとして集められるのはすごいと思います。キュレーター自身もCartに参加するメリットを感じているんでしょうね。

尼口:最近はすぐに、いわゆるステマを疑われるようになってしまったので、芸能人の方々も自分のブログで商品を紹介しづらくなっているのです。その点、Cartはそもそもが商品を紹介するためのサービスなので、ステマを疑われることもなく、自分が本当に気に入った商品を気兼ねなく紹介できます。また、Cartには、Eコマースサイト側がキュレーターに対して自社の商品をPRするメッセージを送れる仕組みがあります。このメッセージを送るためにはお金がかかるのですが、その金額はキュレーターのフォロワー数に応じて変動するので、影響力のある人にメッセージを送る場合、商品を紹介してもらえないと企業にとっては損失になってしまうわけです。そのため、Eコマースサイト側もメッセージを送るキュレーター選びはかなり真剣に行っています。

三橋:キュレーターはメッセージを受け取ると報酬をもらえるのでしょうか?

尼口:はい。メッセージを開封すれば、キュレーターの方に報酬が入る仕組みになっています。そのため、メッセージを送っても読まれないというリスクも少ないのです。

三橋:なるほど。ステマ問題を上手に回避しつつ、キュレーターとEコマースサイトの双方に参加するメリットがある素晴らしい仕組みですね。Cartのキュレーターの方々を見ていると、「この人がこれを選ばないはずがない!」と思わせる軸があるように思います。これまでは消費者が商品を見つけ出す手段といえばネットで検索するか偶然出合うくらいしかなかったと思うのですが、Cartはその偶然を必然に変えてくれるサービスとも言えますよね。

尼口:ありがとうございます。この先のEコマースを考えると、探す、見つける、比較する、といった行為はあまり生産的ではありませんし、今後なくなっていくと思うのです。おそらく、それらの行為は自動化され、提案という形にリプレイスされていくんじゃないかな......。今はその提案をレコメンドエンジンが請け負っていますが、結構無愛想だったりするので、Cartではそこに雑誌的なコンテンツの要素を足して実現していきたいと思っています。

三橋:今後はCartでもさまざまな部分が自動化されていくかと思いますが、現状ではキュレーターが選んだ商品の掲載順序などは自動化されているのでしょうか?

尼口:今のところ、自分がフォローしたキュレーターのレコメンド商品が時間軸で表示されるだけなのですが、もう間もなくガラッと変わっていく予定です。たとえばメンズファッションやライフスタイルといった、カテゴリーに分類して自分がフォローしていない情報も閲覧できるようにしていく予定です。見てくれている人が30代の女性だとしたら、統計を基に「こういうものを求めているんじゃないか」と提案をしながらリーチさせていく。渋谷区の主婦にギャル雑誌をぶつけてもウケないと思うので、その辺はチューニングしながらアルゴリズムを作って導入していきたいと思っています。だから今のCartは、まだ僕らが考えているビジョンの10%も実現できていないんです。

三橋:今後の動きもとても楽しみですね。

尼口さんが注目するEコマースサイトとは

三橋:過去のインタビュー記事などを拝読していると、ECマニアとまで自称している尼口さんですが、最近ご自身が購入したECの商品で「これは!」と思ったものはありますか?

尼口:ちょうど先日買って面白いと思ったのが、ダイレクト出版の本です。ダイレクト出版って、海外の著名なマーケターの方々と直接ライセンシングして、その方たちの本を基本的には直販のみで出版しているんです。たぶん僕が購入した本は書店で普通に売るとしたら1500円くらいの価格じゃないと売れないくらいのものだと思うのですが、ダイレクト出版は倍ぐらいの価格で売っていました。

三橋:本としては決して安い買い物とは言えないと思いますが、尼口さんがその本を手に取ったのには、どんな理由があったのでしょうか?

尼口:本の内容もさることながら、とにかく売り方が面白くて参考になるんです。本なのに返金保障が付いているし、商品をカートに入れてからのアップセルとかも着実にされていくんですよね。知らないうちにカートに8000円分くらい入っていて、気づいたら購入しそうになっていたり(笑)。たまに買ってみて「あぁ、ダイレクト出版さんはこういう風に売っているんだ」「買った後はこういうメールが来るんだ」と勉強させてもらっています。

三橋:ちなみに購入された本は何の本ですか?

尼口:人脈作りの本です。人脈を資産にする方法はこうです、と提案する本なので、一見するとタイトルがすごく胡散臭いんですけど、キャッチコピーを読まされて、セールスレターを読まされたら気づくと買っていましたね(笑)。「これは買っておかないとまずいかも!」という気持ちになっていたんです。

三橋:それはすごいセールスレターですね(笑)。最後に、尼口さんがブランドを考える際に一番大切にしていることを教えてください。

尼口:先ほども言ったように僕が一番大切にしていることは、企業の原点を探るということです。そこに尽きます。創業者と話す、ということが大事だと思いますね。やはり理由を知ると納得して買えるという部分はあると思うのです。とはいえ、単純に聞いて面白いストーリーがあるというのは企業にとってラッキーなことで、ストーリーだけではブランディングがうまくいかないような企業も多いと思います。だからこそ歴史がある企業は強力なわけですが、歴史がなくても「どうしてこの商品を作ろうと思ったのか」というストーリーをうまく伝えてあげれば消費者を共感させることはできるのではないでしょうか。

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