ライフスタイルブランド「無印良品」を国内外で展開する良品計画は、リアル店舗とネット通販を連携したオムニチャネル化にいち早く取組み、その成功企業として注目を集めています。顧客視点によるデジタルコミュニケーションを突き詰めた結果がオムニチャネルだったという良品計画のデジタル戦略について、良品計画WEB事業部の川名 常海氏に話を伺いました。

コミュニケーションを突き詰めたら、夜な夜な店舗でケーキを並べていた

――オムニチャネルの施策を強化し始めた時期と、そのきっかけを教えてください。

無印良品は、2000年に本格的にデジタルのコミュニケーションを始めました。世の中がインターネットで何かをしなくてはというムードの中で、当社もまずはEコマースをやってみようと。当時は店舗が近くにないお客様に対してネット通販を提供する戦略だったので、店舗を利用されるお客様と、ネットストアを利用されるお客様は別々の人と想定していました。ところが、これはあまりうまくいきませんでした。理由としては、世の中のインターネットの環境が未熟だったことと、もうひとつは社内で店舗対ネットストアという対立が生まれてしまったことです。その頃は店舗の売上が落ちると、「ネットに売上を取られたのではないか」という声が店長から上がっていました。本来、売上は天気や在庫状況など、さまざまな要素の掛け算なのですが。

また、肝心のEコマースの売上もあまり伸びなかったので、2003年に戦略を見直すことにしました。当時ネット会員の動向を調べたところ、ネットストアで購入したことのあるお客様は40%で、それ以外の60%のお客様は買わないけれどもサイトに来ている。では何を求めて来ているかというと、新商品やキャンペーン、店舗の場所をチェックしているんですね。とすると、店舗とネットストアを利用するお客様は別の人ではなく、1人のお客様ということになりますよね。そこで、お客様視点で店舗とネットストアの連携を模索するようになりました。店舗は実物を触れるけれども営業時間が限られている、ネットストアは実物には触れないけれども24時間購入できる、そうした双方のメリット、デメリットをうまく連携するのが、お客様にとって一番いい形のはずだと。

そこで、ネット会員にクーポンを配信して、店舗のレジで提示していただければ10%オフにするというキャンペーンを始めました。当時は携帯電話の画面でクーポンの画像を見せてもらうだけの本当に簡単な仕組みのO2Oです。そのキャンペーンに多くのお客様が参加していただき、売上が伸びました。また、「ネットを見て来ました」というお客様が店舗に多くいらしたことで、ネットでのコミュニケーションが増えると店舗に来るお客様が増えるという認識が社内的にも徐々に浸透してきたことが非常によかったですね。ほかにも、ネットストアで購入して店舗で受け取るというサービスも始め、その売上は店舗につけるようにしました。これが第2の転機でした。

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――顧客視点を取り入れたら、自然にオムニチャネル化が進んでいったということですね。次に転機となったのはいつ頃ですか?

2009年頃からスマートフォンの普及、SNSの発達により、生活者がみずから必要な情報を得ることができるようになり、購買行動が変化していきます。その頃からSNSが購買行動の大きなトリガーになり始めました。そうした時代に無印良品としてはどのようなコミュニケーションをしていくのか考えました。

――具体的にどのような施策を行いましたか?

ソーシャルメディアが登場する以前は、サイトにお客様が訪問してから購入に至るまでの経緯については注目しがちですが、購入の動機や購入後の感想については、調査することに時間とコストがかかりました。ところが、ソーシャルでは「無印」「カレー」などブランド名や商品名を検索するだけで、ある程度把握できますし、お客様との直接のコミュニケーションも可能です。そこで、TwitterやFacebookを立ち上げて、ソーシャルを連携したコミュニケーションを始めました。

――Facebookでは、動画にも力を入れていますね。商品をどう使えばいいかがわかりやすく解説されています。

2009年頃にも、1個1個の商品について動画を作ったことがあります。当時はPC視聴を想定して1分程度で作成していましたが、現在はスマホ視聴がメインとなり、表示するタイムラインの長さも短くなりました。ですから、お客様がタイムラインを1スクロールする間にコミュニケーションをする必要があり、今はほとんどの動画が見えた瞬間に再生して、10秒から15秒で終わるように作っています。

――手段はデジタルですが、動画の内容はとても情緒的ですよね。

そうですね。最初は本当にデジタルコミュニケーションだけに注力していたのですが、それだとお客様とのコミュニケーションがうまくいかないんです。そこからいろいろ考えて、有楽町店でインスタレーションを作ることを考えました。

――WEBチームの方が作成したのですか?

そうです。クリスマスシーズンに限定販売した、ヘクセンハウス(お菓子の家)を自宅で作れるキットを使って、お菓子の街を作りました。企画の発端は、ヘクセンハウスのキットを購入したお客様の声をソーシャル上で収集したところ、小さい頃に読んだ童話の世界を想起したとか、あるいはそれを想起したお子さんにねだられたという理由が多く見られました。それなら、その童話の世界観を増幅させようというコンセプトで作成しました。

――反響はいかがでしたか?

反響は大きかったですね。お菓子の街にカメラを仕込んで、お菓子の街の住人の視点で撮影した動画を24時間サイトで見られるようにしたことも大きかったと思います。さらに、お客様の声とお客様が撮影した写真を掲載してコミュニケーションを強化しました。お客様とのコミュニケーションを突き詰めていくと、デジタルの接点の幅だけでは解決しないことが出てきます。お客様の購買行動をシミュレーションしながらコミュニケーションを突き詰めたら、深夜の有楽町でスタッフ全員でケーキを並べていた、みたいな(笑)。

――アナログの極地ですね(笑)。ソーシャルをきっかけとしたヒット商品はありますか?

最近では、「体にフィットするソファ」という商品ですね。

――「人をダメにするソファ」と言われて、Twitterなどで拡散しましたね。この商品自体は新商品ではなく、以前から販売していた商品ですよね?

2002年から販売しています。実は、この商品はお客様とのネットコミュニケーションによって開発された商品なんです。体にしっかりフィットするので、普通に座ることもできるし、リラックスしたいときには横になることもできる。そこから、「人をダメにする」というキーワードが出てきたのだと思うので、これは我々としても乗っかろうと(笑)。

そこで、「いつでもダメになれる ちょっとダメになる」というキャッチコピーで、「体にフィットするソファ」と同素材を使用した「フィットするネッククッション」の特集ページを作り、連動して睡眠をサポートする音楽を聴けるアプリを開発しました。アプリは多言語化して世界展開し、累計70万ダウンロードを記録し、商品の売上も上がりました。

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――ソーシャル上で上がった声をキャッチアップして、発信につなげていくことが必要ということですね。

そうですね。また、プロモーションとは違うのですが、2013年6月に当社の商品であるフカヒレスープの販売をやめてほしいという署名活動が起こったことがあります。フカヒレスープをつくるために、絶滅危惧種のヨシキリザメを無駄に殺しているので問題があると。でも、絶滅危惧種にはランクがあって、ヨシキリザメは軽度なんですね。また、ヒレだけをとってあとは捨てているのではなく、身は練り物製品、軟骨は健康食品、皮革は工芸品にと、さまざまなものへ利用され、サメはその地域では昔からなじみのある食べ物なのです。また、その地場産業を守る一助となれるように取り組んでいる商品でしたので、そのことを当社としてしっかり声を出さないといけないとの思いから、当社のコメントをリリースしました。

すると、「無印がんばれ」という声がソーシャル上でたくさん上がって、翌週のフカヒレスープの売上が通常の4倍になりました。以前に池上彰さんが「買い物は投票行為ですね」とおっしゃっていたことがありますが、まさにそのとおりで、企業に対する応援が購買動機にもつながるということ、そうした新しい消費のスタイルがあることを実感しました。

後編では、MUJIパスポート開発のきっかけ、反響などについてお聞きします。

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