写真や読みもののコンテンツが充実し、FacebookやInstagramでも多くのファンを有するメディアEC「北欧、暮らしの道具店」。当サイトを運営する株式会社クラシコム代表取締役・青木耕平氏へのインタビュー後編では、スマートフォン時代に合わせた商品の見せ方や、自らの立ち位置をメディアからパブリッシャーへと変えた理由、新しくスタートした広告事業についてお話を伺いました。

一瞬一瞬で商品を売り切る「ジャパネットたかた」が理想型

――商品についても伺いたいと思います。現在、商品の在庫は約900SKUということで、インテリア雑貨を扱うサイトとしてはかなり少ないと思います。また、このSKU数はこの数年変化がないそうですね。

むしろ、商品点数は去年よりも減っていると思います。私たちは毎週各商品の売上のABC分析を行っていて、Cランクの商品から取り扱い終了を検討するようにしています。ですから、過去に投入した商品は相当数ありますが、現状有効なSKUはタイトになっているんです。以前は、商品数を多く揃えてロングテールを狙うことが常套手段とされていましたが、それはサーチ中心でページ回遊がしやすいパソコン中心の時代の話だと考えています。今インターネットの中心となっているスマートフォンでは、ユーザーはあまり検索せず、アプリのタイムラインに流れてくるものを訪問するだけで、回遊するページ数も相対的に少なくなっています。つまり、今はストックを厚くして選べるようにするのではなく、10時からはパソコン、14時からはテレビ、夜はプリンターを売るというような、「ジャパネットたかた」さん的な手法が理想ではと思っています。

要するに、それは「フローが太い」ということです。今は「ストックが厚いこと」から、「フローが太いこと」に価値が移っている時代。たとえば、昔はたくさんあるページへのアクセシビリティを担保するために、トップページのデザインはポータル型だったわけですね。でも今は、太いフローを表現する場所が必要なので、トップページの役割はポータル型からタイムライン型に変わっているはずです。源泉かけ流しのように、どんどん出てくるイメージですね。そういう世界観の中でマーチャンダイジングはどうあるべきかを考えれば、極端な話をすれば一瞬一瞬1SKUだけで成立するのが理想。ですから、正直900"も"あるという感じで、刈り込み切れていないと思っています。

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――そうすると、商品の精度を非常に高めていかなければいけないということですよね。ヒット商品が常にあり、在庫の奥行きもあると。

在庫を常備するという考えさえなければ、すべてが初投入の商品である必要はないと考えています。たとえば、3か月に一度100個しか作れないような作家ものの商品は、今までのビジネスの間尺では合わないといわれていました。つまり、ページをつくってもすぐ売り切れてしまうんです。でも、この方式でいけば、一瞬で100個売り切れる商品のラインナップを増やして、日々どんどん投入できる体制をつくれば、すごいスケールになる。私たちは供給量は少ないもののとても人気がるある商品、例えば作家ものを相当数扱っていて、日々多数の商品が再入荷されて一瞬で売れていきます。イメージとしては、フラッシュマーケティングに近いかもしれません。現在は、そのような商品を中心にしつつ、マンスリーの売上が約1億に達するまでに成長できています。

―一気に露出して、一気に注文をとるというフラッシュマーケティングのような形は、御社の積極的なSNS活用とも連動しているように思います。

私たちがメディア化を志向した頃のWebはパソコン中心で、ユーザーのパソコン対モバイルの比率が6:4でしたが、今や85%がスマートフォン。そうなると、検索から来る人の割合が減り、回遊が減り、それからコンバージョンレートが落ちます。また、ブラウザを立ち上げないので、ブックマークの資産価値が減衰します。これはもう本当に恐ろしいことです。それが1年というタームで急速に起きたのが2012、2013年。Webの時代にGoogleにインデックスされないのは存在していないのと一緒だといわれていたように、新しい時代においては、タイムラインに載らなければ存在してないのと一緒だという時代がきているのかもしれない。そう考えると、どこかのタイムラインに継続的に露出する以外に独立して生きていく方法はないと思いました。そこから、ソーシャルメディアの研究を一気に始めたんです。

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――FacebookやInstagramなどのSNSから紙媒体まで、さまざまなフォーマットに合わせてコンテンツを最適化して発信していますね。そのことから、現在は自らを「メディア」ではなく「パブリッシャー」だとおっしゃっています。

ソーシャルメディアはサイトへ集客するためのツールとされていますが、実際にソーシャルメディアの記事からリンクを踏んで訪問する率は5〜10%程度。意外に低いんですよね。そんななかで、私たちのプレゼンスを高める方法は何かというと、ソーシャルメディア上でコンテンツの価値を最大限に伝えるということです。ですから、「続きはこちらで」とリンクを貼るよりも、コンテンツをしっかり見せて「『北欧、暮らしの道具店』ってこういうコンテンツを出すんだね」と評価していただくほうが、合理性があります。それはもうメディアではなく、パブリッシャーではないでしょうか。つまり、状況が変化してメディアという手法では対応できなくなったとき、それに対応するための次のコンセプトは何だろうと1~2年考えて答えを出します。メディア化のときと同じで、パブリッシャーになりたいからなったんではないんです。

――最近では「BRANDNOTE(ブランドノート)」という広告事業もスタートしています。その経緯を教えてください。

ソーシャルからの送客数の伸びも貢献して訪問数が約2年間で7倍に増えた一方で、コンバージョンは40%程度下がりました。結果的に売上は毎年1.6、1.7倍ほど伸びていますが、もはや人が集まるという価値を物販だけでマネタイズするのは困難になっているんです。ですから、まず少なくとも人が集まるという価値を、物販以外のビジネスモデルでマネタイズすることにトライせざるをえない。そのための第一歩が「BRANDNOTE」だと考えています。

――その第1弾として登場したのは「無印良品」でした。同業者である「無印良品」を御社のサイト上で紹介するというのは非常に興味深かったです。

私たちは、取り扱う商品をライフスタイルの1シーンに溶け込ませて見せることが多いのですが、そのなかに無印良品さんの家具などが写っていることが多いんです。撮影場所であるスタッフの家に置いてあることが多いので。お客様からも問い合わせも多く、親和性が高いと感じていました。私たちから見た無印良品さんは、お化粧品でいえばベースメイク商品。ベースメイクだけでいいという人もいるかもしれないですが、そこに色気が欲しい人にはメイクアップ商品のニーズがありますよね。無印良品さんはライフスタイルにおけるベースメイク、つまり僕らの商品をフィットさせやすいプラットフォームなんです。ですから、無印良品さんやIKEAさんがどんどん発展していくことは、当社にとってもプラスが大きいと考えています。

また、無印良品さんのように、マーケティングが強く自社でブランディングできるところでも、それに対するアンサーソングはクチコミに頼っている状況です。そこを補完する形で、ブランドのさまざまなよい点を紹介するメリットは大きいのではないかと思いました。

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――それは今まではメディアが貢献していた部分ですが、同じフィールドで戦うショップの立場から紹介するという点が新しく、価値があるように思います。

私たちがやりたいのはアドバタイズ(広告)ではなく、イントロデュース(紹介)です。アドバタイズは広告主だけに責任を負って伝える一方で、イントロデュースでは、その被紹介者に対しても責任を負う。私たちとお客様との間に信頼関係が形成されているからこそ、それを裏切らない紹介をしたいと思っています。

――今後も状況の変化に合わせて、マネタイズを考えていくということですね。

そうです。私たちには「フィットする暮らしを作ろう」というコンセプトがあって、それを実現するためには会社が自由で平和で希望がなければいけないといっているんですね。そのためには、いかに他社の支配を受けず、他社のプラットフォームにできるだけ依存せずに運営していくかが大事。他社と価格競争やスピード競争をしないでいける、独特のポジションを自分たちでつくっていくことが必要だと考えています。

――New Commerce Hubでは、広い意味でのEコマースを取り上げています。新しい時代に向けて、買い方や買い物はどのように変わっていくと思いますか?

人は「お店」から買いたいのだと思います。私たちが頑なに自分たちをお店といい、代表者を店長という呼称から絶対に変えないのは、自分たちをお客様にはお店と認識してもらいつつメディアとして使ってもらいたいからです。お店に来ているという感覚で、結果メディアとして使っているという状況にしたいということですね。お店であることは、物を売るプロであること。要するに、プロから買いたい、アマチュアからは買いたくないというのが本質的なことだと思うので、僕らとしては、メディアやパブリッシャーといったビジネスのコンセプトはありますが、物を売るという意味でのプロフェッショナルというところには徹底的にこだわりつづけたいですね。

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