スマートフォンの普及により人々の購買活動が大きく変化する中で、新たなマーケティング手法として「オムニチャネル」が注目を集めています。ここでは、百貨店の事例に焦点を当てて、その歴史的背景や考え方と特徴をご紹介します。

'集客'を目指すO2Oから購入満足度を上昇させるオムニチャネルへ

スマートフォンの普及に伴って、2012年頃から「O2O」という考え方が注目されるようになりました。'Online to Offline'を意味するO2Oは、オンライン(インターネット)を利用してオフラインである実店舗にユーザーを誘導することに注力するという考え方で、台頭するECサイトへの対抗策として店舗経営者の注目を集めました。位置情報を利用した施策やクーポンアプリの提供などで一定の効果を上げました。一方で、「O2O」には「実際に店舗に誘導はできても実際の購買につながるとは限らない」という課題が残り、実店舗で品定めをした後もインターネットで価格を比較して安価な店で購入する「ショールーミング」という事象を生み出しました。そこで、単に人の誘導に注力するO2Oから一歩進めて、実店舗・DM・ウェブ・SNS・ECサイト・モバイルデバイス等のさまざまなチャネルを利用し、流通システムや顧客情報の活用を見直しながら、顧客のニーズにタイムリーに対応することで機会損失を減らし、顧客の購入満足度を上昇させるための取り組みとして注目されるようになったのがオムニチャネルです。「オムニ(omni: すべての)」と「チャネル(channel: 接点)」を足して作られた言葉で、1851年創業のアメリカの老舗百貨店として知られるメイシーズ(Macy's)のT・ラングレンCEOの「オムニチャネル・リテーラーになる」と宣言したことで注目されるようになりました。

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テレビ~スマートフォン~実店舗~ECサイトをシームレスにつなぐメイシーズの戦略

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メイシーズは2009年に'My Macy's'・'Omni Channel'・'Magic Selling'という'MOM'戦略を発表しました。実店舗とECサイトの統合、在庫や顧客の情報の一括管理といったシステム投資を行い、テレビCMなどで自社のスマートフォンアプリを宣伝してそのアプリから属性データを用いて近隣店舗への来店を促進し、店舗では近距離無線通信技術で入店時にユーザーのスマートフォンにポイント付与やメッセージの送信等を行い、商品にはQRコードを付けてアプリで詳細確認・購入を可能にしました。また、ECサイトの物流拠点を店舗に置いたことで、ECサイトからの注文にも近隣の店舗が即時対応を可能にしました。テレビCM、スマートフォン、実店舗、ECサイト等をシームレスにつなぐことで、2010年以降のECサイトの売上を毎年40%以上成長させています。また、社内ではCEO直下のマーケティング部門の傘下にすべてのチャネルを置くといった組織・評価制度の改革により「売上の取り合い」を防ぎ、組織全体の施策を統一することでPDCAサイクルが回しやすい組織体質の構築に成功した点も注目です。

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店頭での販売を前提としないマルチプライシングを採用したジョン・ルイス

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1864年創業という長い歴史を持つイギリスの百貨店、ジョン・ルイス(John Lewis)は、国内に展開する約40店舗での価格よりオンラインショップの価格を安くするマルチプライシングを採用しています。顧客は店舗で気に入った商品を見つけたら商品に付いたQRコードからスマートフォンでオンラインショップにアクセスして商品の詳細やオンラインショップでの価格を確認し、そのまま店舗で購入するかオンラインショップから購入するかを選択することが可能です。また、店舗では試着後にオンラインショップで購入するための端末も用意し、商品の購入希望者に店舗より安いオンラインショップでの購入を勧める接客を行うなど、店頭での販売を前提としない戦略を採っています。

このように、海外の百貨店は2010年代に入ってから自社サービスのオムニチャネル化戦略に積極的に取り組んでいます。その目的は、スマートフォンの普及による新たな顧客ニーズに臨機応変に対応して顧客満足度を最大化することです。そして、その動きは日本の百貨店業界でも注目を集めています。後編では、海外の動きを参考にしながら日本の社会やマーケットの特徴に合ったオムニチャネル戦略を展開する国内のオムニチャネル事情に迫ります。

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