2014年8月30日、モディ新首相の訪日を皮切りに、昨年はインド経済への注目が再燃した年でもあった。インドにおける「Eコマース」の市場もまさに勃興期を迎えており、今後の急成長が見込まれている。人口約12億人の大国、インドのインターネット利用者数は世界3位。野村証券が昨年(2014年)行った調査によると、Eコマース市場は現在の100億米ドル規模から今後5年で4倍以上の430億米ドル規模にまで拡大すると予測されている(※参照)。
特に祭事期ともなれば ECサイトは桁違いの盛り上がりを見せる。最大手の「Flipkart(フリップカート)」は、ヒンドゥー教徒が新年を祝う「ディワリ」に向けた10月の祭事商戦で1日限りのセールを実施。当日は10億以上のアクセスが集まり、開始から10時間以内の取引高は1億米ドル(約110億円)に達した。2番手のアマゾンも同時期にセールを展開し、期間中2日間の取引高は通常の2.5倍に増加したという。


india01.jpgFlipkart(フリップカート)」

孫正義社長も認めた「インドのアリババ」

実績では大手2社に水を開けられているものの、日本での知名度では3番手の「Snapdeal.com(スナップディール・ドットコム)」が随一かもしれない。同サイトを運営する地場のスナップディール社に対して、ソフトバンクが昨年10月、総額6億2700万米ドル(約677億円)の巨額を出資し、同社の筆頭株主となると発表したからだ。ちなみにソフトバンクの孫正義社長は、向こう数年間でインドに約100億米ドル(1兆800億円)投資する考えを表明している。

india02.jpgSnapdeal.com(スナップディール・ドットコム)」

スナップディール社はクナル・バールCEOとロヒト・バンサルCOOが2010年に設立。スナップディール・ドットコムは同年2月に共同購入サイトとしてサービスを開始したが、その後現在のマーケットプレイス型のEコマースサイトに転換。以来、登録ユーザー数 2,500万以上、加盟店数 5万以上を獲得し、国内 5,000以上の地域に商品を届けている。「インドのアリババ」との呼び声も高い。

扱う商品は最大手のフリップカート同様に幅広く、スマートフォンやタブレット端末などデジタルガジェットを筆頭に、男性向け・女性向けのアパレル商品、子ども向けの玩具、ジュエリー、スポーツ用品、旅行用品、教育商材などをカバー。商品のラインナップにおける他サイトとの差別化の取り組みとしては、地場の二輪車最大手ヒーロー・モトコープとエクスクルーシブな提携を行い、スクーターとオートバイ、またその部品やアクセサリー類の販売を行っている。


企業買収によってサービス面での差別化を図る動きも。ユーザーの属性情報に基づいてギフト向け商品のレコメンド(推薦)を行うプラットフォームを提供する地場のウィッシュピッカー社を昨年12月に買収。昨年4月には、ユーザーのアパレル商品検索を支援するサービスを提供するドゥーズトン社も買収していた。スナップディールのサイト内に新機能として反映されるかもしれない。

インドのEコマース市場に詳しい株式会社マイクロアドの子会社MicroAd India Pte. Ltd.(マイクロアドインディア)の佐々木誠社長によれば、国内でスナップディールが頭角を現し始めたのはソフトバンクによる出資を受け入れてからとのこと。それに加えて、運も味方した。

前述の商戦期に、フリップカートにおいて、割引率の偽装や購入直前の完売表示、不十分な在庫などのサービスに関する問題がユーザーの間で起こり、それがSNSを通じて拡散。同社の経営陣が謝罪の声明を発表する事態にまで発展したのだが、これを受けスナップディールは自社のサイトにユーザーを誘導する広告を各サイトに多数掲載。これが奏を功し、一部のユーザーがフリップカートから流れた可能性があるという。

しかし、現地のユーザーの声を聞く限り、スナップディールのユーザービリティーには改善の余地がおおいにあるようだ。具体的には、「商品の掲載の仕方はカテゴリーごとの分類に収支しているのみ」「各商品の詳細ページにある情報が乏しい」「グローバル展開しているサイトの2年遅れ」といった声が聞かれた。こうした課題が、ソフトバンクなどから調達した資金の後押しによってどのように解決されていくかが、覇権奪取の鍵となるだろう。

india03.jpg「Snapdeal.com(スナップディール・ドットコム)」の商品詳細ページ

収益化で求められる「グーグル依存からの脱却」

課題を抱えるのは、2強も同じ。まず、前述にもあるがサービス品質。フリップカートの件を受け、インドの商工相はEコマースサイト運営者に対する規制の必要性を検討する姿勢をいち早く示した。背景には、ユーザーからの苦情に加え、Eコマースサイトの盛り上がりで客足が低迷している実店舗を構える小売業者らの反発もあるという。

もうひとつの課題は、ずばり収益性である。アジアのビジネス情報を扱うWebメディアNNAが報じたインド企業省のデータによると、2013年4月~2014年3月のフリップカートの売上高は284億6000万ルピー(約536億円)と、前年度の2.4倍に拡大した一方で、最終赤字額も38億2000万ルピーと前年度の約2.1倍に膨らんでいる。アマゾンの売上高は前年度比50%増の16億9,000万ルピー。赤字額は32億1000万ルピーと、前年の2億4600万ルピーから13倍に増えた。

スナップディールも、売上高は5.2倍の15億4000万ルピーと拡大したものの、赤字額は26億4600万ルピーと2.2倍に増えた。3社とも当面は収益よりも投資を重視するのだろう。物流面においては、スナップディールへのソフトバンクの出資前、10億ドルの資金調達の計画を発表したフリップカートは国内の倉庫の数を今後3年間で現在の6ヵ所から50ヵ所に、その直後、競うように20億ドルの増資を発表したアマゾンは、今後数ヶ月で7~10ヵ所に増やすとした。

佐々木氏に、いま注目しているインドのEコマース市場のトレンドを3つ挙げてもらった。一つは、「グーグル依存からの脱却」。インドで今年開催されたグーグル社主催のEコマースフェスティバル「GOSF」に、フリップカートが参加しなかった。その代わり、同時期に自社サイトでは商品の値引きキャンペーンを実施。Eコマースは、グーグルの最大手顧客となっており、グーグルの広告に依存していた状況に対する反発が露呈し始めた兆候といえるかもしれない。

グーグル離れを背景に起こっているトレンドとして、もう一つは「アプリ化」。グーグルをはじめとするネット広告費を抑え、また値引きキャンペーンを実施するたびにサイトを乗り換えるユーザーを囲い込みたいサイトの間で、スマートフォンアプリを提供することが主流になりつつある。3強はいずれも提供しており、他社と値段を比較されることなく商品が売れる状況を作ることで収益化を促そうとしている。


最後が、製造業にとってEコマースサイトが無視できない存在になりつつあること。いわゆるFMCGと呼ばれる生活消費財を扱う企業の中には、スーパーなどの店舗に加え、Eコマースを強力なチャネルとして考えている企業もあるという。これまでは価格競争にさらされるなどの懸念から、サイトへの出品に躊躇していた企業もあったが、その状況が徐々に変化しているという。

インドの物流と決済の現状

簡単に、物流と決済について触れておきたい。インフラが未整備である印象を持つ読者が多いかもしれないが、商品配送までの時間は意外と短い。マイクロアドインディアが行った調査によると、約5割の商品が「3日以内」に、ほぼすべての商品が「5日以内」には到着している。アマゾンなどは24時間以内の配送を売りにしているほどだ。アマゾン、スナップディールなどは、自社と社外、双方の配送網を活用し、これを実現している。

決済の特徴は、「COD(キャッシュオンデリバリー)」が主流であること。同じく同社が行った調査によると、約7割がCODで商品を購入していると回答。オンラインでのクレジットカードもしくはデビットカードによる決済は、就業者が28%、学生が19%。PayPalなどその他のオンラインシステムによる決済は、どちらも6%だった。ただし、大手Eコマースは地場銀行とタイアップし、デビットカード利用促進のキャンペーンなどを実施しており、今後オンライン決済の比率が上がっていくと思われる。

ソフトバンクによるスナップディールへの出資のように、3強にこれほどまでの巨額の資金が集まっていることもあり、「キープレイヤーは決まりつつある」(佐々木氏)。しかし、既存サイト間での差別化による競争や、マーケットプレイス型以外の例えば専門系サイトの登場、外資規制の緩和、そしてなにより市場全体の拡大など、今後も注視すべき要素はさまざまある。

Snapdeal

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