2014年10月2日、アジアのスタートアップシーンでは有名なある企業がドイツ・フランクフルト証券取引所で新規株式公開を行ない、上場を果たした。その企業とは、ハイテク新興企業の集積が進む同国のベルリンに本社を置く、インターネット関連企業の「Rocket Internet(ロケットインターネット)」だ。

クローン型ウェブサービスの量産工場

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ロケットインターネットのウェブサイト

同社は、"To Become the World's Largest Internet Platform Outside the United States and China.(米国と中国を除く国と地域で世界最大のインターネットプラットフォームになること)"をミッションとして掲げており、また自らを "We are not investors. We are builders.(投資家ではなく事業家)"と標榜している。

それを実現するべく、「Eコマース」「マーケットプレイス」「ファイナンシャルテクノロジー(オンラインペイメントなど、いわゆるFinTech)」の3つの事業領域に絞って、次々と事業を立ち上げているのだが、彼らがここまで"有名"になったのは、立ち上げるサービスのほとんどが、先進国で成功したものの「クローン」と指摘されているからだ。

たとえば、Amazonのクローン「Lazada(ラザーダ)」、世界最大級の宿泊先予約サイト「AirBnB(エアービーアンドビー)に対して「Wimdu(ウィムドゥ)」、靴を中心としたアパレル小売りサイトではアメリカ最大の「Zappos(ザッポス)」に対して「ZALANDO(ザランド)」などがある。こうして事業を立ち上げては、eBayのクローン「Alando(アランド)」を本家に4,300万ドル(約43億円)で、Grouponのクローン「CITY DEAL(シティディール)」を本家に1億2600万ドル(約126億円)で売却するなどして、それを元手に新たな事業を立ち上げるということを繰り返している。

ウォール・ストリート・ジャーナル誌によれば、同社の新規株式公開は、ドイツのハイテク企業のものとして過去10年で最大の案件。しかし一方で、先述のように独自の技術をもち合わせていないことや傘下企業がいずれも黒字化していないこと、企業としてのバリューション(経済性評価)などに警戒の声が上がり、同日の終値は公開価格比約13%安で終えた。

筆者が以前取材した投資家からも、ロケットインターネットの「クローン問題」に対する批判の声は聞かれたことはある。むしろ、少なくないほどだ。批判する人たちの主張の多くは「インキュベーターとしての戦略は正しいのかもしれないが、新興国独自のサービスや地場の起業家精神を育成するものではない」といったものである。同社と志向の異なる読者からすれば、共感できる意見ではないだろうか。

ただ、戦略を描いたところで、それを実行に移すのは容易なことではない。特に、多くのインターネットサービスを立ち上げるにあたり必要不可欠な、通信環境や決済手段、流通網などインフラが未整備の東南アジアなら、なおさらのこと。ならば、彼らから学べることも少なくないはずだ。

2年と半年で46ヶ国・25,000店舗にまで爆速で拡大

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フードデリバリーサービス「foodpanda

そこで今回は、同社が提供するサービスの中でも、東南アジアで特に存在感を増している、フードデリバリーサービス「foodpanda(フードパンダ)」(南米、中東、アフリカでは「HelloFood(ハローフード)」の名称で展開)を取り上げ、その事業内容やウェブサイトにおけるユーザー体験について解説したい。あえて釘を刺しておくなら、日本人からすれば、これもまた「出前館」のクローンなのだが。

フードパンダは、ウェブサイトやモバイルアプリを通じて、自宅やオフィスにレストランやフードチェーンの出前を頼めるサービスで、外食と内食の間のいわゆる「中食」市場のプレイヤーである。2012年3月にシンガポールで提供が開始され、現在ではアジア14ヶ国、ヨーロッパ11ヶ国、南米7ヶ国、中東4ヶ国、アフリカ10ヶ国のあわせて46ヶ国、25,000以上の店舗と提携している。

使い方を簡単にご紹介したい。まず、サイトを訪れるか、もしくはiOSアプリ・Andriodアプリ・Windowsアプリのいずれかをインストールし、会員登録を行なう。その後、出前先の郵便番号を入力すると、そのエリアに配達可能な店舗が表示されるので、その候補の中から店舗を選択。希望のメニューを選ぶと、SMSで注文内容の確認と配達時間が送られてくる。

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こちらが、シンガポールのショッピングの中心街 オーチャードのある地点の郵便番号を入力して、検索したときの画面。店舗名や住所、食事のジャンル(インド料理、イタリアン料理など)、配達時間、配達料金、注文可能な最低金額、決済手段、店舗によってはイスラム法上で食べられるメニューを提供していることを示す「ハラルマーク」も表示されている。

店舗の表示順位は、ユーザーによる評価(5つ星評価)、注文可能な最低金額、配達料金順に変更することができ、また食事のジャンル、オンライン決済が可能か、クーポンを使えるか、ベジタリアン向けか、フードパンダオススメのお店かなど、いろんな条件でフィルターをかけて検索することもできる。その他に、キーワード検索も可能であり、配達は店舗が自ら行なっている。

表示された店舗を見たところ、ラインナップの充実度はシンガポールの有名店舗が6~7割入っているという印象だ。シンガポールで有名なフライドチキンの「Popeyes」、イタリアンの「Pastamania」、寿司の「Sakae Sushi」、洋食の「Swensen's」、日系のブランドでは牛丼の「Yoshinoya(吉野家)」の出前も行なっている。一方、自社で出前システムを構築している「マクドナルド」や「KFC」は見つからなかった。

力技の買収攻勢と堅実なパートナーシップ戦略

サービス開始から2年半というわずかな時間で、46ヶ国、25,000以上の店舗の出前サービスを実現するに至ったフードパンダだが、その爆速の成長を支える最も大きな要因が、ロケットインターネットの強み(資金力・資金調達力)を活かした、既存地場サービスの「買収攻勢」である。

2012年5月にはシンガポールで「Singapore Dine(シンガポールダイン)」を、2013年3月にはハンガリーで「Ételvitel KFT」を、2014年6月にはロシアで「Delivery Club(デリバリー クラブ)」を、9月にはブラジルで「Entrega Delivery(エントレーガ デリバリー)」を買収し、提携店舗を拡大させた。事業が黒字化していないにもかかわらず、資金調達と買収を繰り返す同社のリスクテイカーとしての姿勢には驚かされる。

買収攻勢が力技だとするならば、実はあまり知られていないであろうもうひとつの技が、堅実な「パートナーシップ戦略」である。マレーシアでは2014年2月にコンビニエンスストアチェーン「7Eleven(セブンイレブン)」と提携し、サービス上でユーザーがお菓子や飲料、携帯電話のプリペイドカードなどを注文できるようにした。

2014年2月には同社がベトナム・ホーチミンに進出した直後に「KFC」と提携。後に首都ハノイにも展開した。また、同じ頃にインドを拠点とする東南アジアのレストランクチコミサイト「OpenRice(オープンライス)」とも提携。これによりユーザーはサービス上でお店やメニューに関するクチコミも簡単に閲覧できるようになった。

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フードパンダは「Nokia」の端末にプリインストールされている

さらに、携帯電話メーカーの「Nokia」とも提携。同社のブランド「Asha」「Lumia」「Nokia X」の端末に、フードパンダのモバイルアプリがプリインストールされることになった。フードデリバリーサービスが市場で確固たる地位を確立する上で掲載する店舗やメニューの数は非常に重要であるため、これらのことを実現した同社の執行力は賞賛に値するだろう。

最後に、ロケットインターネットのクローン問題はさておき、同社のグローバルネットワークは特筆すべき優位性であることを付け加えておきたい。サービスはあくまでもローカル、それこそ街ごとに提供されるのかもしれないが、アジア、ヨーロッパ、南米、中東、アフリカのそれぞれの国と地域で知見が蓄積・共有され、グローバルスタンダードなサービス開発を促すはずだ。

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